259 国宝 風神雷神図屏風
先週明けの月曜の早朝、東京地方は今年一番の雷雨に見舞われました。
雷鳴が轟く中、公開されたばかりの「風神雷神図屏風」のことを思っていました。
俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一、三つの風神雷神図屏風が66年振りに一堂に展示。
それは貴重な、少々大袈裟に言うと、歴史的なある瞬間に立ち会うことになるのです。
でも、本心は俵屋宗達の「風神雷神図屏風」が目当て。
これまで幾度となく、豪華本で見てきたあの名品に出会いたい一心でした。
休日はとんでもなく混雑して見るどころではない・・との情報を得ていた折、運良く仕事帰りに立ち寄る時間が出来たのです。神さまの思し召しをありがたく受けることにしました。出光美術館じたい3年振りくらいでしょうか。近くにあってもなかなか行かないというか行けないと言いますか、時間が思うままにならないからこそ、行けるとなった時のパワーは昔よりも強くなった気がします。おっと話がそれてしまいましたが、何はともあれ、小雨降るある夕刻に実現を果たします。
胸の奥から込み上げてくる感情と同時に拝みたくなるような気持ちにかられ、涙が出そうになります。久し振りに何かに取り憑かれた感覚がしました。言葉を変えると、絵を通して別の感動が訪れると言ったらよいでしょうか。これは絵に限ったことではありませんし、もちろん国宝に限ったことでもありません。昔の人の感覚で言うならばありがたくて、平伏したくなるような絵や仏像を前にしたときの気持ちなのかもしれません。
さて、宗達の「風神雷神図屏風」を偶然発見したのは、なんと光琳でした。落款も何もないこの屏風絵を、まごうことなき宗達の作であるとした光琳の、宗達に対する敬愛の眼差しが汲み取れます。配置が微妙にずれているものの、ピタリと一致する風神雷神の輪郭。光琳は宗達の絵をトレースしたと明らかになったそうなのです。そして一方の抱一は、宗達の作を知らずに、つまり光琳のオリジナルと思い込み、模写をしたそうです。
いずれにしても、尊敬する先人の模写をするというのは、かつてのならわしのようなものです。
これは『花伝書』を著した、世阿弥の芸事は物真似であるとする・・に通ずるものがあります。または写しという手法であり、日本文化を読み解くひとつの鍵が潜んでいることが伺えます。
恐れながら、経験の浅い20代の頃の私がデザインやレイアウトで悩んでいる時分、当時の師匠から、「まずやってみたいものの真似をしなさい、そしてもっと良いものを見なさい」と良く言われました。これは大変です。やってみたいものが、まずわからない、何が良いものかもわからない。そこから修行が始まるわけです。真似をすることで、修得するものがあります。またそのような行為が抑制した自己から現れるその人自身のものが滲み出るのです。作為が見られないこと、それが本来の個性というものなのではないでしょうか。もっともその窮地に達することは並大抵のことではないことを記しておきたいと思います。
雷鳴が轟く中、公開されたばかりの「風神雷神図屏風」のことを思っていました。
俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一、三つの風神雷神図屏風が66年振りに一堂に展示。
それは貴重な、少々大袈裟に言うと、歴史的なある瞬間に立ち会うことになるのです。
でも、本心は俵屋宗達の「風神雷神図屏風」が目当て。
これまで幾度となく、豪華本で見てきたあの名品に出会いたい一心でした。
休日はとんでもなく混雑して見るどころではない・・との情報を得ていた折、運良く仕事帰りに立ち寄る時間が出来たのです。神さまの思し召しをありがたく受けることにしました。出光美術館じたい3年振りくらいでしょうか。近くにあってもなかなか行かないというか行けないと言いますか、時間が思うままにならないからこそ、行けるとなった時のパワーは昔よりも強くなった気がします。おっと話がそれてしまいましたが、何はともあれ、小雨降るある夕刻に実現を果たします。
胸の奥から込み上げてくる感情と同時に拝みたくなるような気持ちにかられ、涙が出そうになります。久し振りに何かに取り憑かれた感覚がしました。言葉を変えると、絵を通して別の感動が訪れると言ったらよいでしょうか。これは絵に限ったことではありませんし、もちろん国宝に限ったことでもありません。昔の人の感覚で言うならばありがたくて、平伏したくなるような絵や仏像を前にしたときの気持ちなのかもしれません。
さて、宗達の「風神雷神図屏風」を偶然発見したのは、なんと光琳でした。落款も何もないこの屏風絵を、まごうことなき宗達の作であるとした光琳の、宗達に対する敬愛の眼差しが汲み取れます。配置が微妙にずれているものの、ピタリと一致する風神雷神の輪郭。光琳は宗達の絵をトレースしたと明らかになったそうなのです。そして一方の抱一は、宗達の作を知らずに、つまり光琳のオリジナルと思い込み、模写をしたそうです。
いずれにしても、尊敬する先人の模写をするというのは、かつてのならわしのようなものです。
これは『花伝書』を著した、世阿弥の芸事は物真似であるとする・・に通ずるものがあります。または写しという手法であり、日本文化を読み解くひとつの鍵が潜んでいることが伺えます。
恐れながら、経験の浅い20代の頃の私がデザインやレイアウトで悩んでいる時分、当時の師匠から、「まずやってみたいものの真似をしなさい、そしてもっと良いものを見なさい」と良く言われました。これは大変です。やってみたいものが、まずわからない、何が良いものかもわからない。そこから修行が始まるわけです。真似をすることで、修得するものがあります。またそのような行為が抑制した自己から現れるその人自身のものが滲み出るのです。作為が見られないこと、それが本来の個性というものなのではないでしょうか。もっともその窮地に達することは並大抵のことではないことを記しておきたいと思います。
by tsukinoha
| 2006-09-17 06:50
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